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プーチンは「雨の王」と同じ運命?・金枝篇と日本の信仰

ロシアの右派思想家、プーチン氏を公然批判か「雨の王と同じ運命」

これは、11月13日の朝日新聞デジタルの記事ですが、各社とも同様のニュースを配信しています。

ロシアのプーチン大統領の「頭脳」ともされる右派思想家、アレクサンドル・ドゥーギン氏が、ウクライナ南部ヘルソン市からのロシア軍撤退をめぐり、プーチン氏批判とも取れる発言をした。ドゥーギン氏は、運転していた車の爆発によって8月に死亡したジャーナリスト、ダリヤ氏(当時29)の父。

まあこんな内容でした。

ドゥーギン氏は、完全な権力を与えられた独裁者は国民や国家を守るものだと強調。失敗時には、英人類学者フレイザーの古典
『金枝篇(きんしへん)』中の「雨の王」
の運命をたどるとしました。干ばつ時に雨を降らせられない支配者が殺されるとの内容を指していると、いろいろなニュースがそろって伝えています。


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(金枝篇の口絵・ウィキペディアより)


まあ後日、この報道は西側の「フィクションだ」と主張し、「私もすべての愛国者も、無条件でプーチン氏を支持している」と釈明したそうですが、影響の大きさにビビったのでしょう。。
 
  ☆

それにしても、「金枝篇」に「神殺し」「王殺し」はたくさん出てくるけど、「雨の王」なんてあったっけ?
そう思って読み流しましたが、結局どこに書いてあるかわからず。なんせ、ちくま学芸文庫版で、上下合わせて合計1000ページほどあるのです。じっくり読み直すと、夜が明けますよね(>_<)


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ところでこの『金枝篇』(The Golden Bough)は、イギリスの社会人類学者ジェームズ・フレイザーによって著された未開社会の神話・呪術・信仰に関する集成的研究書です。金枝とはヤドリギのことで、この書を書いた発端が、イタリアのネーミにおける宿り木信仰、「祭司殺し」の謎に発していることから採られました。
映画「地獄の黙示録」でカーツ大佐(マーロン・ブランド)の愛読書として映るシーンがあるのだそうです。

しかし、超大作の有名な書籍ではありますが、かなりアバウトなところもあります。

たとえば、ちくま学芸文庫(上)の164ページには、日本の霊的な皇帝「ミカド」もしくは「ダイリ」は、太陽の神の化身で全宇宙を支配し、
一年に一度、すべての神々はこの皇帝に表敬訪問し、その宮廷で一カ月を費やす。この一カ月は「神無し」という意味の名で呼ばれ(もちろん神無月のことである)、どの寺院にも神々は不在と考えられるので、だれも寺院に(神社)に詣でることはない。

と記されています。
いやいやフレイザーはん、神無月に神々が向かうのは出雲ですがな。御所でも伊勢神宮でもないんですわ・・・なんて突っ込みたくなります。


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そもそも神無月に神々が出雲に集まるため、出雲以外には神がいなくなるという説は、平安時代以降の後付けで、出雲大社の御師が全国に広めた語源俗解であるとされます。
そんなに古くからある話ではないのです。

この出典に関して金枝篇の注釈を調べると、この話は1841年にイギリスで出された本に書いてあったようです。生半可な知見の又聞きを論拠としているわけですから、無理もないとは思います。しかし、日本の「ミカド」つまり天皇に関する実例には、上のように、かなり首をかしげる事例が目立ちます。ならば、外国の膨大な実例のなかには、こんな低レベルの論理や結論がたくさんあるはず。

というわけでドゥーギンさん、この『金枝篇』の論理的弱点を十分知ったうえで「雨の王」の王殺しを持ち出したんですかいな?
きちんと論証を詰めてから話をせんと、はしご外されまっせ。
そもそも、自身が唱えるネオユーラシア主義は、日本にクリル(千島)列島を譲渡して反米を煽動し、日米同盟を解体させるという戦略もあったはず。世界中を敵に回さず(中国や北朝鮮とかはともかく)、形だけでも周囲と仲良くしなはれ。

  ☆

で、金枝篇の話です。
全体の二割くらいがテキトーな情報ソースだとしても、あとの八割にはかなり重要なことがぎっしり詰まっているのは確実です。

たとえば、雨が降らないときには、
中国では、雨の神を表す巨大な龍を紙か木で作り、行列を作ってあちらこちらへ引き回す。
と書かれています。≪金枝篇(上)39ページ≫

これはたしかに、日本にも結構あります。
下は、香川県三豊市の「仁尾竜まつり」で繰り出す「雨乞い竜」です。


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(ウィキペディアToto-tarouより )


約二百年前に旱魃に見舞われた際、雨乞いの行者の発案で、人々が藁で大きな竜をつくって海に流したところ、間もなく雨が降ったという由来があるそうです。


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(ダイドードリンコホームページより)

  ☆

さて、私が不思議に思うのは、同じく金枝篇のこの記述です。

雨の神を強要する方法としては他に、神の出没する場所で神を困らせるというやり方もある。(略)
ダルド族(インダス川上流渓谷地方に住む)は、牛皮もしくは何か不浄なものが泉の中に入れられると、嵐が起こると考えている。ゲルウァシウスの語る泉は、石か棒が投げ入れられればすぐに雨を降らせ、投げた者を水浸しにするという。

これらはそのまま、日本の人事や信仰や民俗に当てはまります。

ひとつだけ実例をあげます。
下は、大阪府交野市の三之宮神社です。


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本殿背後には、「屋形石」と呼ばれる二つの巨石がありました。ご神体の磐座ですね。


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『三之宮神社由緒書』には、こう書かれています。
過去にこの「屋形石」を成分分析した結果、穂谷付近の岩石ではないと判明している。


つまり、わざわざここへ、この不思議な磐座を運んだというわけですね。
かなり謎めいています。神体山もあるようで、かなり古い信仰だと思います。

そして大事なのは、拝殿の左に立つ、注連縄がかけられた高さ1メートル程度の立石の存在です。


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三之宮神社は雨乞いの神様としても名高く、雨乞いの際、近郷五ヶ村の氏神に祈っても効果の無い場合は、村民がそろって太鼓や鐘を鳴らしながら神社に入り、御神体のひとつであるこの石を穂谷川に投げ落として祈願したのです。


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神社内にある多くの石灯籠は、そのお礼に奉納されたものだそうです。

ご神体を投げ込むとはひどいと思われるでしょうが、このような民俗は広く行われていました。信州では「薬師如来を水に投げ込む」なんて恐ろしい例もあり、仏教にも浸透した、かなり古くから継承されてきた民俗信仰のようです。

 ☆

というわけで、ロシアの右派思想家、アレクサンドル・ドゥーギン氏がプーチン大統領を支持するしないは勝手だけれど、金枝篇を持ち出してもったいぶった言い回しをするなよな‼と言いたかったのが最初でした。
しかしまあ結局、私も金枝篇のネタになってしまいましたが・・・。


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プーチン大統領が失脚したとき、古典を中途半端に我田引水して侵略を正当化する、さらに好戦的な右派が出てこないことを祈るばかりです。


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Author:sazanamijiro
古代史マニアですが、特に自然神道期の多様な信仰遺跡に魅せられています。

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